竜典長者の伝説とその舞台江波の資料や町の人の話【福井県越前町】

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江波

福井県越前町江波。昔は宮崎村内の集落です。

この江波には、古くより伝わる有名な伝説があります。それが今回取り上げる「竜典長者」というお話です。

今回はそんな竜典長者の伝説と、その伝説に関する何かが町に残っていないかを探っていこうと思います。

竜典長者の伝説

1部「治水編」

この話は特に2場面に分かれています。

まずは1部からです。

 継体天皇の治水事業で、物部佐昌(すけまさ)は、上の戸の湖を切り落とす難事業をしていました。あるときひとりの女の人が来て「お手伝いさせてほしい」といいます。よく働き、賤(しず)と名付け雇いました。彼女は毎日働いても疲れた様子がありませんでした。
 彼女は世の常ならぬ美女だったので、佐昌の寵愛を受け、一子を生みました。ですが、あるとき彼女は佐昌に語りました。
「私は人間ではなく、この上の戸の湖の主です。この湖には龍が多く住んでいます。あなたは情ある人と聞いたので、あなたにお仕えすれば湖を切り落とすのを思いとどまっていただけると考えました。どうか切り落とさないでください。」
 佐昌は「こればかりは天皇の命令であり、私にはどうしようもないことだ。」と嘆きました。しかし、せめて住家を残そうと良い所を探し、西にある池を残すことにしました。
 そして残った湖が江波という湖でした。江波は物部佐昌が龍神に与えた江でした。

参考:『越前若狭の伝説』より『剣神社盛衰記』

これは、継体天皇が行った大事業、福井平野の治水に関する話です。

福井平野には、この継体天皇の治水の話が数多く残っています。

またそれに関する史跡や碑、像なども多くあり、福井坂井ではとても有名な話です。

それが、この宮崎村の方までつながってきているわけですね。一つの伝説としてではありますが、たしかに継体天皇の治水伝説の中にはよく「竜」が出てきます

ときには、「悪竜を退治した」と言ったような伝説も伝わるほどです。

ここでは、竜は悪い存在にされていないようですね。逆に不憫な感じです。

そして、なぜかこういう不憫というか悲しげな話の時は、人とそれ以外の種族の間に子ができます

地域の伝説としては、よくある話ですが、その真相はどうなのでしょう。それに、「竜典長者の伝説」なのにまだ長者が出てきていません。

では2部へ行ってみましょう。

2部「長者編」

 江波には鐘が淵と明星が淵があります。この淵の竜は佐昌に仕えて子を産みました。彼女は江へ入りますが、子は人間なので入れません。なので、絹に包んで江のそばに置き、子が泣けば水から出て、乳を与え、子と共に泣いていました。
 ある時、竜典という里人が泣き声を聞いて来て、「なぜここで泣いているのか」と尋ねました。彼女は「私はこの江の竜神で、この子は人の子だから共に水へ入れない。何卒この子をもらい受けてください。そのご恩に、この絹をいっしょにあげます。この絹は1ぴきだが、使う時は2尺残しなさい。一夜のうちに元の1ぴきに戻ります。」
 竜典は子と絹をもらい、しだいに長者になりました。

参考:『越前若狭の伝説』より『剣神社盛衰記』

ここでようやく長者となってゆく人物が出てきます。

この物語を見るに、どうも主人公はこの竜神の女性なのではないかと思うほど登場します。

しかも悲劇のヒロインです。

まとめる

では、話が長いのでまとめます。

竜典長者の伝説とは、簡単に言えば2部に分かれていて、

  • 1部が福井平野治水に関係する話で、人の男と竜の女が結婚し、子供ができる物語。
  • 2部が江波の者が1部の竜女と出会い、その子供を貰い受け、竜女の恩返しとしてあるものをもらい長者となった。

という話です。

今回紹介している「江波」は特に2部からで、竜典長者の「長者」も2部から登場します。しかも、こう言っては何ですが、どちらかというとサブキャラです。

では、この話についての真意や現地に何か残っていないかをまず文献から調べて行きたいと思います。

               

郷土史から伝説を読み解く

今回は1987年発刊の『宮崎村誌』から見て行こうと思います。

この郷土史で言われているのが、

人間と異種が結婚するただの怪奇談ではなく、地方の命毛が自分の家の誇りとして、龍神が先祖だと言い伝えにしたもの

としていることです。しかしそれと同時に

江波には竜典長者の子孫と伝わる家はない

とも言っています。

これはどういうことなのか。

その他気になるところがあります。

『剣神社盛衰記』には、江波に東岳山文珠寺という寺があり、鉢伏山蔵王権現(ぎおうごんげん)の寺だといわれています。この村の上に鏡が淵があり、ここに青龍が住んでいました。泰澄大師の時、この竜神が仏果を与えられ、竜が龍宮からもらってきた観音像をお礼としてもらい、「ここに宮殿をつくって安置し、末世のためにされよ。」といって、如意輪観音と山鐘を渡したとされます。この竜が佐昌と子をもうけた竜だとされます。

参考:『宮崎村誌』

以上のようなことも書かれていたのです。

まさかの第3部が出ているのです。

しかも長者の話じゃなくて、また竜女の話です。もうこの竜女が主人公でいいんじゃないかな。

 

さて、私が知りたいのは、竜典長者伝説の遺産です。

宮崎村誌にあった、「文珠寺」「蔵王権現」がその竜女に関係する場所だとされているということなので、これらについて探っていきたいと思います。

とはいっても、江波の文献は今のところこれが限界のようなので、ここからは現地調査しかないです。現地の人に聞いてみましょう。

地域の人の話から読み解く

さて、私は現地の江波で地域の4人(中には90代の方もいらっしゃる)方々にお話を聞きました

すると、4人すべての方が口をそろえてこう教えてくださったのです。

この江波には寺はない

一体どういうことなのでしょう。

たしかに『宮崎村誌』には、「江波に東岳山文珠寺という寺があり~」と書かれています。

しかし、やはりこの地区の古老の方でも、

江波は広いけど、昔からお寺は一つもなかった。

と言っておられるのです。

「文珠寺」「蔵王権現」のことを聞いてもやはり4方とも「聞いたことがない」と口をそろえて言われます。

つまり、文献との食い違いが起きているのです。それとも宮崎村誌の『剣神社盛衰記』が古い文献過ぎて、今の地区民まで伝わっていないとかでしょうか。

そこで竜典長者の伝説について探しているということを聞くと、「役場で聞いてもらった方がいいかもしれん」とのことでした。この伝説についてもそこまで浸透していない感じでした。

他の可能性や似たような事例

現在江波には1つお寺があります。

しかしこのお寺は、「最近できたもの」らしいです。少なくとも、私がお話を聞いた方の話のニュアンス的に、その方が生まれる前にはまだなかったという感じでした。

 

実は、記事にはしていないのですが、前にも今回と同じようなことがあったのです。

それは、福井県坂井市番田堀江公の三つ鱗伝説」です。

笛の達人だった堀江の先祖がこれまた竜女(大蛇の女)と結婚して子をつくり、その子が朝倉の重臣となった。代々その子孫には、体のどこかに3つの鱗のようなあざがある。

という話です。

しかし、これについて現地の人に聞いたところ、

  • 最近になって聞いた話
  • ここら辺の人たちはあまり知らなかった。
  • 最近福井市の方からそんな語り部が来て知った。

というようなことを言っておられたのです。

つまり、こういう伝説と言うのは、地域内で伝わっているというよりも、地域の外でどんどん話が誇張されて伝説として伝わっていくというような事例の方が多いのかもしれません。

江波が池だった痕跡はあるのか

伝説の話の中で「江波は昔大きな池だった」ということもまた重要な部分です。

見ての通り現在江波は湖なんてありません。住宅地になっています。

しかし、現地へ行ってみると土地の大きな高低差が目に見えてわかります。しかも、山際を通る道が昔の湖の迂回路だったという話もあります。

江波地区最大の名所である岩本観音を紹介した記事、「岩本観音(磨崖仏)の言い伝えと餓死霊の墓【福井県越前町】」の中に、岩本観音はなぜ高い位置にあるのかという問題で、「昔はその山沿いの高い位置に道があった」という話が郷土資料から読み取れるので、それもまた江波が湖だった名残なのかもしれません。

また「機織り岩」という伝説の伝わる岩は、天王川の氾濫を治めるために機を織ったと伝わる場所です。この江波でいくつか川が交わり、氾濫しやすくなるのは、水がたまっていく湖の名残なのでしょうか。

歴史の伝説とは何なのか

ある地域に伝わる伝説は、一つの大きな歴史的要因から派生したものが多いように思えます。

そんな伝説が、どんどん話が盛られていき、何時しかこの世のものではない何か、例えば竜や大蛇が登場するまでに至り、歴史的事件の一部として話が成り立って行ったのかもしれません。

確かにその方が話は面白くなるでしょうし、その歴史的事件はさらに壮大さを増すことになります

地域に伝わり、且つ広く知られているような伝説伝承というものは、そういった話誇張の要因が少なくともあるのは事実でしょう。

史実をもとめる学者であれば、これまた厄介な話かもしれませんが、一つの民俗の観点から見ればこれもまた歴史の一部なのでしょう。

参考文献:『越前若狭の伝説』『宮崎村誌』

アクセス

国道365号線、県道3号線からつながります。

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