道路の真ん中に残された、大杉と地蔵様。
道行く人に不思議がられながら、堂々とたたずんでいます。
福井県越前町寺の山を越える県道104号線の真ん中、対向車線に挟まれて、大きな杉の木と地蔵様が立っています。
名を「千足杉」といい、異彩を放っています。
様々な話が噂されるこの千足杉と地蔵さんに、今回訪れました。
千足杉とはどんな場所なのか
越前町の陶の谷と樫津の間、寺区にその千足杉があります。
県道104号線を進んでいくと、ひときわ目立って千足杉が姿を現します。
写真の通り、かなりの大木で何年もこの地に立ち続けているのだろうと想像できます。
その木の下には、陶の谷側に地蔵様があり、樫津側には千足杉の標柱が立っています。
樹高23メートル。
根周り4,2メートル。
引用:『宮崎村誌』
いったいなぜこの杉が道の真ん中に残っているのでしょうか。車通りも激しく、結構とばす車もちらほらあります。
危ない位置にあるようにも思えるこの杉。道路拡張工事の時に伐られなかった理由があるのでしょう。
千足杉の言い伝え
なぜ伐られなかったのか。この千足杉には、言い伝えが残っています。
おそらく一部の方は何となく察しがついていそうな気もします。
『宮崎村誌』によると、
この木を伐るとたたりがあるというので、今も道の真ん中に残されている。
という言い伝えが残っているのです。
想像通りでしたでしょうか。
近年のネット界では、この越前町の千足杉が「心霊スポット」と同視されているようで、「やばい場所」という噂が広まっているようです。(ネット検索するといくつか出てきます。)
言い伝えが「たたり」なんて言葉が出てきていますし、ある意味言い伝えの延長線上にある噂なのでしょう。
では、本当にそんな「やばい場所」なのでしょうか。
実は、千足杉は重要な役割を果たしている存在なのだということが見えてきました。
千足杉の役割
役割1
大杉の根元に地蔵様がいます。
この地蔵様の事を、地元の方は「かけんぞ様」と呼んでいるそうです。
どういう意味なのでしょうか。
昔、この谷を通る際、この地蔵様まで来ると必ず腰かけて一服したそうです。そして、履いていたわらじを履き替え、古いわらじを杉の木に投げ上げてひっかかると道中安全だと喜んだそう。 参考:『宮崎村誌』 |
つまり、『宮崎村誌』によると
- 地蔵さんの「かけんぞ様」は、「腰を掛けて」一休みする場所の意味。
- 千足杉は、古いわらじが何足も引っかかっていたので、「千足杉」といった。
以上のことが、千足杉の役割であり、由来となっています。
何にも恐ろしいことなんてなかったですね。むしろ、1つのランドマークとして、大杉も地蔵さまも親しみを持たれていたようです。
道中の安全を祈願する、まさに交通安全の神様・仏様だったわけです。
役割2
ちなみに、もう一つ重要な役割があったようです。
織田剱神社領と陶ノ谷八幡神社領の境の傍示だという説もある。
引用:『宮崎村誌』
とのことです。
傍示、国や領地の境の目印だったという説らしいです。
領地の為という、なかなか生々しい話ですね。ただ、かなり重要な役割であるということには変わりないですね。
交通安全の地であり、領地境の目印でもあったとなれば、相当重要な地であったのでしょう。
なぜ残されたのか
では、なぜ木は伐られず、地蔵は移動されず残されたのか。
結局のところ、その理由としては「木を伐ると祟りがある」という理由付けらしいです。
ただ、どうなのでしょう。今よりも山の谷の道を行くことが命がけだった時代。そんな時代から交通安全の地として親しまれてきた「千足杉」と「かけんぞ様」です。「たたりがある」という名目で、伐採されるのを回避しようとしたのではないかとも思わなくはないですね。
また、領地の目印だったとしても、今でも問題の起こる領地境界線の話です。昔も今もお堅い話になるので、その問題解決を重んじる心が残したものなのかもしれません。
今も昔も交通安全の神として…
先ほども記した通り、信号のない道なので結構とばす車もいくつかあります。ただ、この杉を前にしたとき、ほとんどの車が若干減速するようにも思えます。
休憩所と交通安全祈願の地であった千足杉。
今でこそ、様々な噂が広がっていますが、ここは今も昔も道行く人々の安全を見守る、重要な土地なのかもしれません。
参考資料:『宮崎村誌』
基本情報(アクセス、最寄り駅バス停)
最寄り駅バス停は、JR北鯖江駅からバスに乗り換え、陶の谷バス停で下車。徒歩8分。
駐車場はありません。
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