福井県永平寺町竹原に「弁財天白龍王大権現」というもの凄い名前の神社があります。
最近は白へびがいる岩があるというので少し有名になりましたが、それ以外にももう少し詳しくこの神社のことを見て行きます。
今回はこの謎の神社へ訪問し、現地はどんな場所かやその神社の由緒、歴史などを見て行きましょう。
弁財天白龍王大権現とは何か。どんな神様か。
資料から読み解く
永平寺町の東側にある竹原集落。その集落から南へ延びる細い道を進むと谷の入口にこの弁財天白龍王大権現が鎮座しています。敷地はかなり広いです。
その名の通り、弁財天白龍王大権現を祀っているのですが、いったいこの神様は何なのでしょうか。
『御大典記念 福井県神社誌』にその正体が書かれていました。
それによると、この神社の祭神は「市杵島姫命」という神様だといいます。
市杵島姫命は、まさに弁財天の神仏習合の形ともされています。有名所で言えば、京都の松尾神社や広島の厳島神社などで祀られています。
弁財天白龍王大権現もこの市杵島姫命ということらしいですね。
しかし、一つ疑問なのがなぜ「白龍王」なのかです。これが一番の謎なんです。
白龍王の謎ともう一つの神「宇賀神」
(境内には、弁財天さんらしき大きな像が立っていました。)
実は弁財天には市杵島姫命以外にももう一つ、比較されている神様がいます。
それが宇賀神という神です。
この宇賀神、実はいろいろと不明なことが多いのですが、名前からして稲荷大社の宇迦之御魂神にも思えなくはないです。
ただ、この宇迦之御魂神とは全く違うような記述があります。それは「姿」です。
宇賀神の姿は諸説あるようですが、よく言われるのが「体は蛇で頭は人」でとぐろを巻いた姿なのだそうです。つまりは、蛇神や龍神の化身ともされるわけです。
弁財天の化身が蛇や竜ともされているので、この信仰はつながるものがあるようです。
ということは、今回の弁財天白龍王大権現の「白龍王」というのは、私の見解ですが、宇賀神の考えも混じっているような気がしなくもないです。
どちらにせよ「財をもたらす神」という点では一致していますし、弁財天自体が蛇や竜ともされているので、どちらでもいい気はしますけど…。
ただもっと単純な信仰のつながりに、「白へび」の信仰があります。この白へびはこの地域に昔から伝わる信仰らしく伝説も残っています。なので単純に「白龍王」と付いているのは、その「白へび」のことの可能性が一番濃厚です。
白へび信仰は各地で見られます。自然信仰としてでしょうが、それでも「白龍王」と名づけるほど大きな存在であったのでしょうか。
そもそも白龍とは
いろいろと地域によって認識は違えど、共通しているのは、この白龍というのは八大龍王の一つであるということです。龍神の中でもかなり上位に当たる龍神です。
※スピリチュアルな話をするわけではありません。
この白龍ですが、大野市に白龍神社という物があるほど実は祀られているものなのです。そして県内にはほかに黒龍神社というものもあります。その違いはというと…。そんなにないです。というか同じととらえてもらってよいと思います。
福井県に流れる九頭竜川。この九頭竜も八大龍王です。この九頭竜が黒龍であり、白龍なのです。
なので福井県内にはどちらもありますし、地域や年代、郷土史によって九頭竜川は黒龍川にも白龍川にもなっています。
これはいわゆる「へび→龍神信仰」の流れであり、また龍神信仰とは水への信仰です。福井県内の顕著な龍神信仰を表していると考えます。
白龍とは福井の龍神信仰の一つ。黒龍や九頭竜と同等ととらえてもらって構わないでしょう。
幸運の「白へび様」
へび神様へ会いに行く
境内奥へ進んでいくと、川を渡る橋の先に鳥居があり、その山腹に階段が巡らせてあって多くの社が鎮座しています。
この光景だけでも充分絵になる風景です。
この一番上の方に岩があり、その岩に例の「白へび様」が住んでいるといいます。
では、登っていきましょう。
まず入口の二の鳥居には「弁財天大権現」と書かれており、「白龍王」の文字はありません。
この先から、石の階段が続きます。そんなに長い階段じゃありませんが、急な所とかうねっている所とかがあります。また、足場の少ない階段もあるので、足の悪い方も健康な方も注意するところはあります。
かなり入り組んでいます。
たしかに神聖な感じは漂ってきます。
へび神様の言い伝え
入り組んだ階段を登った一番上に、このような岩壁が姿を現します。そしてその岩には一筋の割れ目が入っています。この割れ目の中に、へび神様である白へびが棲んでいるといわれています。
覗くと、信じる人には見えるらしいですが、なぜか私は見ることができませんでした。信じてたのに…!
このへび神様には、こんな言い伝えがあります。
前山という所に割れ目のある大きな岩があります。そこに白い蛇が棲んでいて、それを拝むとお金がたまると伝えられます。また、親孝行の人がそこを通るとお金をくれて、貰えない人はまだ孝行が足りないということのようです。
盆の8月16日には、岩の通りにヘビが長々と横たわっているといいます。
参考『福井県の伝説』『福井の伝説』
弁財天が祀られる所なだけあって「財」に関するご利益がかなり大きいようですね。最近はパワースポットともいわれているようです。
このような言い伝えがあれば、たしかに金運のパワースポットと呼ばれても不思議ではないですね。
歴史背景や由緒
由緒を現地で知るには
さて、これほどまでに霊験あらたかな霊地ですから、いったいどれだけの歴史があるのだろうと気になります。
境内に笏谷石の石板があり、そこに由緒が書かれていますが、風化してほとんど読めません。しかも字が難しい。
いったいどうしたものかと思いましたが、ちょうど掃除してらっしゃる方がいてその方が、「駐車場にある休憩所に由緒書きの紙がある」と教えてくださったので行ってみました。
無料休憩所です。この中に由緒書きの紙があります。
古来より信仰されているが、社が建立されたのは最近だった
川を渡る前に、拝殿かお堂かが建っています。
この弁財天の「白へび」への信仰はかなり昔から続いているもののようで、この辺りでは弁財天の信仰も盛んでした。
しかし、昔からこんなに立派な建物や社が多くあったかと言うとそうでもないようです。
由緒書きにも詳しく書いてありますが。例によって『御大典記念 福井県神社誌』をざっくり見ていくと、
天正二年(1574)の朝倉景鏡や平泉寺関連の越前一向一揆の際に祭祀も絶えたといいます。
その後、昭和15年に大阪の朝井末松氏が夢のお告げで、ここ竹原に石祠を建てて再興したそうです。
参考『御大典記念 福井県神社誌』
そう、一度世の乱れ中に消え去ってしまった歴史があったのでした。それからずっと全くの野ざらし状態だったようで、霊地として崇めることもなかったようです。
そんな土地を360年以上経った昭和15年に再興したというのですから。凄い信仰心が続いていたのですね。しかも夢のお告げだというのです。
昭和でも夢のお告げなんてあるんですね。
まあしかし、地元の人からは白へびの信仰はひっそりと続いていたことと思っています。そうでもしなければ、白へびの伝説や言い伝え自体今まで続いてはいないでしょうから。
「白龍王大権現」の名前を歴史と由緒から考察
「白龍王」という名前はおそらくこの時から付けられたと見て良いでしょう。福井県内には白龍神社や先ほども見たように龍神信仰が盛んですが、それでも「白龍王」というのは、その昭和の夢のお告げあって、それほど大きな存在としたかったのであろうという思いが感じられます。
「白龍王大権現」とは、今までの「地域の白蛇伝承」から「福井県の龍神信仰」への飛躍を願った名前なのかもしれません。
ある意味で、見事こうして名が知られた神社となり成功しているのかもしれません。
これも白へび様の霊験でしょうか。
境内の見所
稲荷大明神
境内には多くの境内社が建っています。
写真はその一部で、多くある境内社の中で唯一神社誌にも記載されている「稲荷大明神」が手前の赤い社です。
なぜ稲荷大明神だけ境内社として記載されているのでしょうか。というかなぜこの境内社に稲荷大明神があるのか。
ここで思い出してほしい。白龍王の謎ともう一つの神「宇賀神」の話を。
弁財天の化身であり蛇神様である「宇賀神」と稲荷大社の「宇迦之御魂神」。
果たしてこれは偶然なのか。これについての真相はわかりません。稲荷神社についても境内社とあるだけで特に何も書かれていませんでした。
もちろん稲荷神社は全国各地で祀られているので、ここにあってもおかしくないです。しかし、憶測にはなりますが、これはやはり何らかのつながりがあるような気がしなくもないです。
龍神の境内社と仏像
その他にも境内社はあり黒龍だったり、白龍だったり。中には金龍なんていう社もあります。
またいたる所に仏像も安置されてあり、境内の谷の方向には薬師さんもいました。
とにかく神仏関係の物が多いので、一通り会いに行ってみると龍やへびの神様も喜ぶのではないでしょうか。
へびがたくさんいる
社や仏像の他にも見所として、写真のようなへびの石や彫刻が多数あります。
本当にいろんなところにこういったへびが隠れていますので、某テーマパークみたいに蛇さんたちを探してみるのも面白いかもしれません。
境内のシャレにならない注意書き
ここまで紹介したように、この弁財天白龍王大権現にはいろいろと魅力があり、蛇や龍に関する信仰や物が多くあります。
ここで、へび神様龍神様のご加護を賜りたいと、そう思える場所でしょう。
しかしですね。私は、そんなへび神様の神域で、とんでもない注意書きを見つけてしまったのです。
それがこれ
「マムシに注意 足元注意 先日出没 被害にあわれた方がいました。」
正直、最初はネタかとも思いました。いやでもこんなネタ誰も求めないだろうし…。
こんな聖地でへび神様を祀っているところで、蛇に(しかもマムシに)噛まれるなんて、もうシャレにならないです。
気を付けましょう・・・。
幸運の神様がいる土地は続いてゆく
古来より地域からの信仰のあった「白へび」の神様の霊地。
一度は乱世の中で荒廃してしまいましたが、その後遠い大阪の人によって再興され、今現在昔からの白へび信仰を体感することができます。
今でこそ、幸運の白へび様としてパワースポットとされて有名になっています。
それは古来よりの廃れない地域の信仰心と言い伝えを繋いできた方たちがあり、遠く大阪の人をも魅了し、そこから再興という形で歴史を繋いでくれた方がいてこそ、今の弁財天白龍王大権現という霊地が存在できているのでしょう。
へび神・龍神に会いに行き、自然のパワーを分けてもらいながら、そういった歴史にも思いをはせてみるのも良いかもしれません。
参考文献:『福井県の伝説』『福井の伝説』『御大典記念 福井県神社誌』『上志比村史』
基本情報
無料休憩所とお守りや神社情報
駐車場にある無料休憩所には、由緒書きが置いてあります。
※在庫が無くなっている場合もありそうです。
他にも、お守りや参拝記念関連の品などもこの休憩所に売っています。
祭事の日程なども書いてあり、この休憩所は社務所のような感じなので、ぜひ立ち寄ってみてください。
アクセス
最寄り駅 | えちぜん鉄道永平寺勝山線の越前竹原駅から徒歩14分 |
自動車 | 上志比ICから5分 |
駐車場 | 20台ほど |
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