先日、東京の東京国立近代美術館と大阪の大阪歴史博物館で「あやしい絵展」というものが開催されました。
美人画や動物の絵などが展示されたのですが、独特の表現方法や描き方などがされた絵が展示されたようです。テレビやラジオでも宣伝されており、それだけでも不思議な魅力が伝わってくるほどでした。
私はこの展示に行きたかったのですが、こんなご時世。新型コロナで県から出ることはおろか、東京や大阪の都会に行くのは、とてもじゃないですが出来たものではありませんでした。
そんな私がいろいろ探していたらある本を見つけました。それは「あやしい美人画」という画集です。
- あやしい絵展に行けなかった方
- 独特な絵が好きな方
- 絵の新境地を探す方
以上のような私と同じ境遇の人に向けて、この「あやしい美人画」と独特の絵の魅力をいくつか厳選して紹介したいと思います。
「あやしい美人画」とはどんな本か
2017年6月16日発売。
東京美術が出版している画集です。
大きさは21㎝ x 14.8㎝と、あまり大きくなくコンパクトな画集となっております。
この「あやしい美人画」は、あやしい絵展に出展していた美人画、少なくともテレビで紹介されている分はほとんど載っていました。しかも解説付きです。
そして、美人画といってもその幅が広かったです。
- 近世・近代の作品
- 西洋の影響を受けた作品
- 生きている美人画
- 幽霊画
- 妖怪画
- デザイン
これほどのふり幅があるので、今回の「あやしい絵展」には展示されていなかったような絵も掲載されていると思います。(妖怪画とかは特にそうだと思います。)
もちろんあやしい絵展に出展されたもので『あやしい美人画』に載っていないものもあります。テーマが「美人画」なので、猫の絵とか風景とか、「人」がテーマではないものは載っていません。
とにかく「美人画」というテーマの中で、多くの種類の作品が掲載されているので、自分にグッとくる作品が一つはあるのではないでしょうか。
ただそれでも一貫していえることが、「異様な雰囲気」をかもし出しているということです。
その「異様さ」が心に刺さってしまったんですがね。おそらくここまで読んでいただいている方も同じだと思います。
あやしい絵の魅力
あやしい絵、特に美人画の魅力は先にも書いた通り「異様さ」、そして「妖しさ」です。
「怪しい」というよりかは「妖しい」と言った方がしっくりくるかなと個人的には思っています。
「美人画」なので、美しいというのは当然ですが、それだけではなくどこか異様な雰囲気を感じるのです。なにかはっきりしない独特の雰囲気。表現の方法なのか、表情なのか、ポーズなのか、色なのか。
なにが妖しく思うのかは人それぞれで、はっきり「これが異様だ」というのはわかりませんが、天才的な表現方法で妖しさの中にある深い魅力に引きずり込まれて行ってしまうのです。
そんな独特の雰囲気のある絵を収録した『あやしい美人画』の中から、私が特に心に来たものを4つ紹介します。
著作権が切れていないものもあるので、画像がないものもあります。
「あやしい美人画」収録の絵を4つ厳選
北野恒富「道行」
北野恒富の大正2(1913)年頃の作品で、近松門左衛門の戯曲を元にした作品です。
屏風の絵ですが、この構図と空間がすでに異様です。そして何よりも、右の男女が明らかに普通ではない表情をしています。
女の人の目は虚ろで、この世の終わりみたいな表情をしています。
男の人は前を向いて女の人と顔を合わせません。男の人の顔もまた、虚ろな目をしています。
●気に入っている所
この二人は顔は見合わせていないですが、しっかりと手を繋いでおり、よくみるとそのつないだ手には数珠が握りしめられています。それは、何らかの理由で相いれない二人が、心の中では繋がっているということを暗示しているかのよう・・・。
この絵のテーマや説明なども『あやしい美人画』内に説明が書かれています。
もしかしたら、元となっている戯曲を知らないで見た方が良いかもしれませんね。ただ元になった話を知ると、絵の細かいところまで気が付くようになり、より理解が深まります。
例えば描かれている3羽のカラス。これの意味もわかってきます。
ただ、この戯曲は登場人物の女性2人が不憫でならない話ではあります。対して男性の方は・・・。
上村松園「花がたみ」
美人画の巨匠、上村松園の作品です。
この絵は一見「あやしい絵」たちの中では比較的穏やかで、純粋な美人画に見えます。
しかしその内容は謡曲「花筺」を元にした作品で、最愛の人と離れてしまい、悲嘆に暮れ精神を病んだ女性を表現しているというものです。右腕には花筺を携えています。
最愛の人と離れ、後に会いに行くも、狂女として官人に花筐を打ち落とされてしまうさんざんな目に遭います。
よく見るとその表情はおかしいことがわかってきます。
●気に入っている所
ぱっと見笑っているかのように見えた顔は全く笑っていなく、片方の口角が持ち上がり複雑な表情をしています。目はどこを見ているのかわからなく、着物は乱れて垂れ下がってきています。
人を想い過ぎて、人がおかしくなってしまっている最大の狂人の表現に思えます。
さらに私がこの上村松園の花筐にグッと来た理由はもう一つあるのです。
それは、謡曲「花筺」の主要人物、この女性の最愛の人というのが、「大迹部皇子」つまりは「継体天皇」のことなのです。しかもこの女性「照日の前」が住んでいたのは、福井県越前市味真野なのです。
越前市には「花筐公園」があり、万葉の里は花の園の施設になっており、継体天皇の花筐像もあるほどです。恋のパワースポットとされるのもこの花筐由来なのですね。
能『花筐』に関しては、まさにこの絵の紅葉の時期に福井県越前市の「花筐公園」も取り上げました。
花筐公園は「花筐ゆかりの地」として、紅葉と桜の名所となっています。そちらでは『花筐』がどんな内容か、また現地の「花筐ゆかりの地碑」や紅葉の様子を記録していますので、一度見ていただけると幸いです。
花筐以外に、当サイトでは継体天皇にまつわる話を取り上げています。
- 佐山姫公園から皇子が池へ ~継体天皇の旧跡を訪ねる【越前市】
- 大森円墳とはどんな古墳なのか「勇島神社」と謎の魅力【坂井市】
- 足羽山山頂の継体天皇像はどこを向いているのか【福井市】
- 三国町梶の貴船神社にある継体天皇の腰掛け石【坂井市】
甲斐庄楠音「横櫛」
甲斐庄楠音の大正5(1916)年頃の作品です。
こちらはまだ著作権が切れておらず画像を掲載できませんが、何とも言えない不気味な雰囲気が漂う絵です。
顔、着物は美しく映えますが、全体的にぼかしがかかっているように見えます。また人物の周りにはもやがかかっていて、浮かび上がっているかのように見えます。
●気に入っている所
顔はおしろいをしていますが、なんだか最近の血色メイクみたいに目の周りが赤くなっていたり、首が赤かったりします。これが余計に不気味さを出しているのかもしれません。
「あやしい美人画」の説明と併せてじっくり見てみるのが良いかもしれませんね。
上村松園「焔」
上村松園の作品です。
源氏物語(げんじものがたり)を元にした作品で、源氏物語に登場する六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)の生霊。嫉妬に狂う女性を表現しています。
この絵は、私が一番グッと来てしまった絵です。もう、はじめてみた時から衝撃が走ったのです。
あの絵…テレビで見た時ですね
あれ……初めて見た時……
なんていうか……その…
まあとにかく、もう余計な説明はいらないほどに、明らかにわかる「妬み」の表現です。本当にすばらしい!
●気に入っている所
背景はなく、その生霊だけが浮かび、花と内側の緑色の着物は美しく、しかしその中蜘蛛の巣の模様もある。
髪を口で噛み締め、妬みの表情を浮かべ、体をねじらせて前身で嫉妬を現わしています。
しかしどこか艶めかしくも見える。そんな絵です。
機会があればぜひ実物を見たいものです。
あやしい絵の魅力を堪能できる
あやしい絵には深い魅力が詰まっています。
本当ならば美術館などで実物を見たいですが、常時展示されているとも限らず、外出もろくにできない今は、本などでその魅力を堪能するというのが良いと思います。説明もありますし、自分だけの時間でゆっくりじっくり見ることができるのです。
また、たまに模写とかとレースとかをして、そういった絵の練習もできることが本の良い所でもあるので、いろいろな使い方ができるとおもうので、おすすめです。
以上、今回はそんな『あやしい美人画』を紹介しました。
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