全国に存在する機織り伝説。
福井県越前町の江波にも、ある機織り伝説とその場所が今も残っています。
今回は、福井県越前町旧宮崎村江波の一角に残る「機織り伝説」とその伝説の地とされる「機織り岩」を紹介します。
どこにあるのか、どんな場所か
福井県越前町江波の北東、広野との境界付近の天王川沿いにその機織り伝説が伝わる大岩があります。
江波の町から山側へ向かう川沿いにあるので、結構薄暗くなります。
近くには圓満寺というお寺があります。
機織り岩の伝説
伝説の岩と伝説の内容
畑がある山の麓にその大岩があります。
傍らには説明板も立っており、機織り岩だとわかるようになっていて、現地でもその伝説に浸ることができます。
ただ少し木々が被っていて見えずらいですね。おそらく夏場は全く草木に隠れてしまうことでしょう。
では、伝説を見ていきましょう。
江波から広野の道中に大岩があり、道に沿って川がある。この岩には草木が生えており、夏の初めに美しい藤の花を咲かせて、岩の本当の姿を現すのは秋になってからである。 江波から広野へ流れる天王川は、昔から改修や直したりすると、神の怒りで川が荒れるといわれている。しかし、ある時川を直さなくてはいけなくなった。村人は神の怒りを心配した。 この時、一人の村の娘が神の怒りを鎮めるために、岩の上に登って機を織り始めた。白く美しい布を神に捧げるためであるという。それからこの岩のそばを通ると「カチャンカチャン」という機を織る音が聞こえて来るようになったという。 参考:『宮崎村誌』、現地由緒書き |
神の怒りを鎮めるための儀式とも呼べるでしょうか。
福井県内でもいくつか機織りの伝説があります。未練を残して亡くなった娘の機織り伝説、生贄となった娘の機織り伝説など。
中には、女神自身が機を織る機織り伝説もあります。
この女神の機織りは、同じく大岩から機を織る音が聞こえて来るというもので、私が以前紹介した大野市の女郎岩の伝説にあります。
今回の江波の機織り岩は、村の女性が神に捧げる機織りということで、庶民的な伝説です。
近くで見上げます。
かなり大きな岩だということがわかります。
そして、苔むした岩からも木々が生えているのがわかります。なるほど確かにこれは伝説にふさわしい神々しさです。
『越前若狭の伝説』には、こんなことも書かれていました。
夜中にここを通ると、岩の中から機を織る音が聞こえたという。 引用:『越前若狭の伝説』 |
「夜中に通ると中から聞こえる」という追加のいわれです。
夜中に急に聞こえたら怖いですよね・・・。
天王川
伝説にあった、「神の怒りで川が荒れる」というのが、この天王川です。
機織り岩のすぐ目の前の写真です。
岩から道を挟んですぐそこ、30メートル程に天王川があるので、道路の拡張工事が行われる前は、本当にすぐ近くの川岸に岩があったのでしょうね。
もしかして、この道路工事の時にも何か伝説に関連したことがあったのでしょうか。
そんな最近でも何かあったのかなと思うと、なんだか高揚します。
庶民の機織りと自然への畏れ
機織りという行為は、昔は身近でありながらそれでいて特別な行為だったのでしょう。特に福井は生地の産業が昔から盛んですし、生活の一部でなくてはならない物。
それに自然への畏れが結びつき、自然、つまり神へ自分たちの生活の一部であり、大切な生きる糧である機織りという行為を捧げることによって、災害を防ごうとした。
人々が持つ自然への畏れ、神を信じる心、人々の生活を反映した。
ここ江波の機織り伝説は、そんな機織り伝説だと思います。
参考文献:『宮崎村誌』『越前若狭の伝説』他現地由緒
基本情報(アクセス、駐車場、最寄りバス停)
最寄り駅、JR武生駅からバスに乗り換え、下江波バス停で下車徒歩8分。
自動車では、鯖江ICから車で20分。
駐車場はありません。
近くには岩本観音があり、併せて見てみるといいかもしれません。
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