小浦八兵衛狐の伝説とお竹狐~城山に棲みつく二匹の狐と三の丸稲荷【高浜町】

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福井県高浜町の城山は、明鏡洞などの景勝地であり、展望公園などがあり、観光化もされています。そんな城山には古くから小浦八兵衛という狐が住みついていたといい、逸見氏の時代からの狐と言います。また別で、お竹狐と言う狐もいて、この狐は恐ろしいほど美しい女性に化けていたのだといいます。

今回はこの二匹の狐の伝説を記録し、この伝説を感じられる、城山にある三の丸稲荷へと足を運びます。

小浦八兵衛狐の伝説

小浦八兵衛と殿様

 今でも城山には、小浦という小さな入江がある。この小浦にむかし、たちの悪いキツネが住みついていた。里の人たちは昔、「小浦の八兵衛狐」と呼んで恐れていた。
「また、あの古狐にだまされたわい」
「今日も人間に化けて、いたずらしおった」
小浦では、その悪キツネにだまされて、ぶつぶつ文句を言う人がいつも絶えなかった。
 小浜の武田氏と、高浜の逸見氏はもともと同じ一族だったというが、常に双方仲がよくなかった。そして悪キツネは常に、逸見の殿様と意見が合わなかった。
 そんなことでこじれているときのことである。たまたま悪キツネは逸見の殿様の謀反のある事を知った。
「逸見の殿様よ、思い知るがよい」
悪キツネはここぞとばかりに後瀬山城主武田氏へ内通した。それを聞いた武田氏は、さっそく軍を整え、逸見軍にむかえ打って出た。
 この合戦で高浜城主逸見氏は、愛馬にまたがって長柄の槍を引っさげ、城をあとに真っ向う勢いをつけて小浜方に突きかかった。
「やあー」
ところが行く手には、大きな松の大木が立ちふさがっていた。勢い余った逸見氏は、その松の木に激突してあえなく落馬してしまった。それがもとで逸見氏は、その後長わずらいにつくことになった。ついに逸見軍は敗れ去ったのである。
 佐伎治神社の絵馬堂には、騎馬武者が槍を持って敵と一騎打ちしている絵馬がかかっている。それは逸見、武田両将の合戦図と言われている。
引用:『若狭高浜むかしばなし』

小浦八兵衛の恩返し

 今からざっと百五十年ほど前のことである。塩土に富永太郎左衛門という、たいへん働き者の漁師がいた。彼はいつも朝早くから舟をこぎ出しては、サザエやアワビなどの貝をとっていた。
 ある朝のことである。太郎左衛門がいつものように城山の沖を通りかかると、岸でしきりに呼ぶ声がする。
「太郎左衛門や、太郎左衛門や」
さっそく舟をこぎ寄せてみると、誰もいない。再び沖の方に出ようとすると、岸からまた呼ぶ声がする。
「太郎左衛門や、太郎左衛門や」
太郎左衛門はピンときた。
「さては、かねて聞いていた悪キツネの奴が、ふざけてだますつもりに違いない。今度こそはこらしめに海へたたきこんでやろう」
太郎左衛門はだまされたふりをして、舟を岸にこぎ寄せ、人間に化けたキツネを舟に乗せてやった。
 舟をどんどん沖に出して、さて海に投げ込もうとすると、影も形も見あたらない。
「キツネの奴め」
太郎左衛門は、てっきりだまされたものとあきらめて、舟あか(舟底の水)をくみ出そうとした。すると、舟の底にキツネが小さくなって隠れていたのである。
 太郎左衛門は、舟の中で逃げ回るキツネを追いかけて、ようやく取り押さえた。そしていよいよ海に投げ込もうかというとき、そのキツネが手を合わせて言うのだった。
「わしは城山に住む小浦八兵衛稲荷だ。長い間いたずらして悪かった。いっぺん舟に乗りたかっただけなのだ。わしの大事にしている宝物をやるから、海へ落とすのだけはかんべんしてくれ」
あまりに哀願するので、太郎左衛門はかわいそうになり、キツネを岸にあげてやった。キツネは喜んで城山へ駆け上がって行った。
 それから数日後のことである。太郎左衛門がいつものように貝をとりに海に出ていると、城山の小浦あたりから、
「太郎左衛門や、太郎左衛門や」
と呼ぶ声がする。舟を岸につけると、例のキツネがやってきて、口にくわえていた杯、掛け軸、石ころを舟の上に置いてこういった。
「これは大事な物だから、初午の日以外は絶対に人には見せないこと、そしてキュウリは食べてはならないこと。そうすればどんな流行病も、お前さんのところには一歩も入らぬよう守ってやる」
太郎左衛門は、キツネからもらった物を大切に持ち帰った。あとで調べたところによると、それはその昔滅んだ高浜城主逸見駿河守の遺物であったそうである。太郎左衛門の家では、キツネとの約束を守って、今でもキュウリは食べないことにしているという。
引用:『若狭高浜むかしばなし』

お竹狐の伝説

 ある夕暮れに、一人の漁師が小浦(明鏡洞)近くの浜辺をひたひたと歩いていた。タコ捕りの餌にするため、カニを探しているのだ。
 美しい夕日が、空と海を赤く染めている。波は揺れるたびに、金や銀にまぶしく輝いた。しかし、漁師はそんな風景にうっとりすることなく、懸命にカニを探した。
「おっ、いたいた」
白い砂の間に、黒いカニが見える。一匹、二匹と捕っているうちに、いつしかあたりは暗くなってきた。
「さて、帰るとしよう」
いっぱいになった魚篭を持ち上げ、漁師は磯づたいに家路を急いだ。
 すると、舟小屋の前に立つ大木の下に、誰かが立っているのに気付いた。
「おや、こんな時分に…」
近くへ寄ってみると、どうやら女のようだ。それも、ただ一人で座っている。小首をかしげながら、漁師はさらに近づいてみた。
 月のない夜なのにそこだけが明るく、顔まではっきりと見えた。と、突然漁師の足は釘付けされたように、びくりとも動けなくなった。そしてがたがたと震えが止まらなくなってしまったのだ。
 それは、まさしく女だった。けれど、普通の女ではなかった。女の着物は巫女の着物のようで、白と赤がとても妖しく見える。しっとりとした黒髪は長くたれ、目が涼しげに釣り上がった美しい女だ。真紅の敷物の上に座り、琴を弾いている。
 仰天した漁師は、どうやって家まで帰ったのかわからない。血の気のない、青ざめた顔で戸口に立ちすくんでいた。
「どうしたんだい、大丈夫かい」
家族がたずねても、わなわな震えるばかりで、何日も何日も口を開こうとはしなかった。
『若狭高浜むかしばなし』

地理

この小浦は、伝説でも書かれていた通り、高浜の城山の明鏡洞あたりのことをさします。

高浜の観光地でもあり、海水浴場でもあります。そして城跡でもあり、歴史もあります。

当サイトでも取り上げています。

明鏡洞と天王山日本海展望台 ~城山公園観光①【高浜町】
https://kofukuroman.com/meikyoudoh/

若狭高浜城跡と桜の名所 ~城山公園観光②【高浜町】
https://kofukuroman.com/takahamazyousi/

この通り、歴史、観光、奇談の多くがある、魅力的な場所です。

その中で、この狐の伝説が追加されます。

狐の伝説を整理する

このような狐の伝説が複数伝わっているということは、この辺りには狐が多かったということなのでしょうか。

八兵衛狐は、この地に住みついている雄狐というイメージですから、女の人に化けるということはなかったのでしょう。なので、人を化かす際には、妖術的な物というよりかは、本当にただのいたずらに近いようなことをやっている印象があります。

そして、逸見氏の時代からの狐は、1500年代から1850年あたりまでは生きているということになっており(逸見氏の時代から古狐ならばもっと前からか)、江戸末期辺りが舞台の「小浦八兵衛の恩返し」には逸見氏の遺物をもっていたという話から、この狐が歴史に関わったということを設定として組み込んでおり、前の「小浦八兵衛と殿様」の話の地続きである構成になっています。

 

お竹狐は結局何だったのか。少なくとも、女の人の格好をしているということで、小浦で有名な八兵衛狐ではないという認識だったのでしょう。だからここで新たな狐が生まれたのか。

しかしこの伝説。結局本当に狐が化けていたのかも明言されておらず、「不気味なほど美しい女の人がいた」という話で終わっています。

正体がはっきりしている八兵衛狐よりも妖しさ満点です。

               

三の丸稲荷大明神

そんな狐伝説の宝庫な城山、小浦には、それらの伝説を彷彿とさせるかのような神社があります。

それが三の丸稲荷大明神です。

三の丸稲荷

小浦八兵衛狐のことを、『越前若狭の伝説』では、小浦八兵衛稲荷とか、小浦稲荷とかいいます。稲荷と言うからには神格化されているのか、神社があるのか、神社の使いとされているのか、いずれかだと思います。

そしてこの辺りにある稲荷神社と言えばこれです。

城山のメイン広場の通りから少し外れた裏に入口があります。

三の丸稲荷

城山の一部なのでしょうが、ここの山は独立しているようにも見えます。

上る道は整備されていますが、夏に来るのは危なかったようです。蜂がいます。蜘蛛がいます。マダニもいそうです。草が茂っており、気を付けなければなりません。

頂上に稲荷神社があります。社殿は細いです。

三の丸稲荷

建物の中に、たしかに神社の様子を確認できました。荒廃しているわけではなさそうです。

三の丸稲荷

狐が多かったからこの神社が建てられたのでしょうか。小浦八兵衛やお竹狐の伝説からこの神社が建てられたのでしょうか。逸見氏の時代からあるのだとしたら繁栄を願って建てられたのかもしれません。元から町の神社としてあるのなら、小浦八兵衛伝説はこの神社から起こった話かもしれません。

この神社についての詳細情報はありません。

しかし、狐伝説の空気を感じられる場所のように思います。

狐というもの

狐という存在は、今回の伝説だけでも様々な顔を見せています。
歴史に大きくかかわった、強い影響力のある存在。
庶民にも関わって、いたずらをする存在。
人に宝を与え、人を守る存在。
人間に化けて、ただその立ち姿だけで人を恐れさせる存在。
狐とは何なのでしょう。
人に身近だった、それでいて人間にはない魅力を持った、妖しい存在。
神の使い。
人はどうやっても狐にはかなわないのです。
自然界の主的なものなのかもしれません。

参考文献
『若狭高浜むかしばなし』著者高浜町教育委員会 出版1992
『越前若狭の伝説』著者杉原丈夫 出版1970

基本情報(アクセス)

最寄り駅JR小浜線若狭高浜駅から徒歩16分
自動車大飯高浜ICから8分
駐車場城山公園内にあり

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