福井県大野市田野。ここには古くから信仰の対象とされる岩があります。
昔の伝承から始まり、今に至るまで地域の人々に受け継がれる話。今回はそんな「いぼ落とし岩」の伝説を見て行きます。
地理
いぼ落とし岩があるのは大野市の富田地区田野。大野市街地から離れている大野盆地内にあります。
周辺に小山がたくさんあり、不思議な地形です。
いぼ落とし岩があるのはそんな田野の田園の中にあります。
伝説
いぼとり岩
むかし田野の村に、みにくいイボだらけの娘がいた。イボをとるくふうはないかと毎日鏡の前で泣いていた。ある日娘は、鏡の前でうたた寝をしたとき、大岩の前で手をあわせている自分の姿を夢に見た。娘は目覚めてからその岩を探し当て、お金を持って行っては毎日祈り続けた。娘はイボもとれてみちがえるほどの美人になり、村の娘は皆これをまねたので、この村の娘はだれかれ区別なくきれいになった。今でもその岩のところにお金が供えてある。
引用:『越前若狭の伝説』
いぼ落し岩
田野の間鍋岩の地籍に、人々の言ういぼ落し岩がある。岩の頭は平らになっていて、その中央に直径十五センチほどの穴が開いている。この穴はどんな干ばつの時でも水があり、この水を一文銭につけて、それでいぼを洗うと一晩のうちにいぼが落ちるといわれていて、今でも百円十円五円などいろいろのお金が入っている。最近になってこの岩石は耕地整理で堂下一意さんの、田のくろに移されている。
引用:『奥越前の昔ばなし』
民間信仰の一つということになりそうです。
また、信仰対象が岩というのもよくある話ですが、なかなか面白い岩です。
昔の娘が美容のことで悩んでいるときに助けてくれる存在。
昔は今のように美容品もなかったでしょうし、庶民には到底化粧もできなかったでしょうからこういった民間信仰の存在は大きなものだったのでしょう。
いまでもこの信仰にあやかってみる価値はありそうな伝承です。
現地の方の話
現地の方にお話をお聞きしました。
というよりも、いぼ落とし岩は所見ではまず見つけられない場所にあるので、現地の方に訪ねてやっと見るけることが出来たという感じです。
その方の話ですが、郷土資料に載っていない話まで聞くことが出来ました。それをまとめてみます。
お話を伺った方の小さかった頃は、いぼ落とし岩の溝に一円玉を転がして遊んでいたそう。写真でもわかる通り、いぼ落とし岩の中心には穴がある。その穴から一本外側に溝が通っている。いぼ落とし岩は少し傾いていて、その溝に一円玉を転がして穴の中に入れる遊びをしていたということ。
いぼ落とし岩は元々この辺りにあった山の斜面にあって、伝説の中にある通り耕地整理をしたときに今の場所に移動させた。昔は山と谷が連なっていて起伏の激しい地形だったそう。
一昔前、ある人がいぼ落とし岩を持って行こうとした時があった。形が珍しいから欲しかったのだろう。しかしいぼ落とし岩を持って行こうとしたところ嵐、雷が起った。それでいぼ落とし岩を持ち出すのをやめたのだという。
いぼ落とし岩は単なる民間信仰の域にとどまらず、持ち出そうとすれば災いが起こるという話まで出てきているようです。しかしそれと対照的に、子ども達の遊び場、遊び相手になっており、穏やかな一面も持ち合わせています。というより、基本は穏やかで人に恩恵を与える信仰。不敬を働けば怒るというような神のような存在のように思います。
また、この辺りにあった山は、むかし土器が出土していたらしいです。
お話を聞いた方の子供の頃は、山を掘れば土器の破片が出てきて、こんなところに昔の人が住んでいたのかと不思議に思っていた記憶があるといいます。ただ残念ながら耕地整理で山をならし谷を埋めたことによって、土器が出土することはなくなったといいます。
昔の人を救う信仰
昔の人は医療もまともに無い時代、藁にもすがる思いで信仰を続けていたのでしょう。
それは日本の自然信仰、民間信仰からなる庶民を救う信仰。
しかしそれはいまも語り継がれており、地域の人々の中に残っています。
いぼ落とし岩はひっそりと、地域の人々の信仰と関心を集め続ける、そんな場所になることでしょう。
基本情報(アクセス)
最寄り駅 | JR越美北線越前田野駅から徒歩17分 |
自動車 | 荒島ICから3分 |
駐車場 | 田野白山神社横 |
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